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奥さまは、お乳を飲ませながら「今が一番幸せ」と言い、「何もいらない。
お父さんが助かっただけでいい」。
するとご主人も、「お金はもういいです。
ボツボツ暮らせればいい。
無理をしなくても、子どもが大きくなって、一緒にこうしてごはんが食べられればいい」と、その心情を打ち明けてくれました。
家族の部屋は2部屋で、すぐに見渡せる広さです。
質素な暮らしぶりは一目でわかります。
その部屋で、夫婦のそのことばを聞いたときに、私は「ああ」と感動しました。
「なんて温かいのだろう。
心の豊かさとはこのことだ」と。
私の仕事の原点です。
人の心の豊かさにはいろんな種類があります。
それこそが人の暮らしです。
インタビューとは、相手の心の豊かさを探し当て、自分の心の豊かさに変えていくことなのです。
人の話を聞くことは、相手の人生を見せていただくことです。
人の人生と「出逢う」ことです。
人の人生にはたくさんの宝物があります。
その宝物を眺めているだけで、こちらまで満たされる気がします。
話を聞き出すことで学んだのは「人の生き方にはどんな制限もない。
可能性はいっぱいある。
道は自分でつくっていけばいい」ということでした。
インタビューをしながらたくさんの人に育てられたと言ってもいい。
いろんな人が、いろんなことを教えてくださいました。
だから私は、話を聞いた後にお礼を言います。
話を聞かせていただいたこと、充実した時間を共に過ごせたことへの感謝を伝えます。
お別れをします。
自分の気持ちを、素直に自分の言葉で。
用意されたありきたりの言葉ではなく、うかがった話の感想を、自分の言葉で相手に伝えることが大切だと考えています。
バイオエレクトロニクスという、まったく新しい科学分野の先駆者である先生は、「人間には、本能的に『知的触発を受けたいという欲求がある」と指摘されます。
また、この欲求を「知欲」と名づけ、「日本人は昔から知欲が強い」と主張されます。
知欲をきちんと発揮できるシステムを作り、より独創性のある発想を生む。
先生は、これまでの数多くの業績に拘泥することなく、今なおオリジナリティの追究に余念がありません。
先生自身がアイデアを出す楽しさを味わっているからではないでしょうか。
知欲を高め、独創性を発揮し、実りの多い人生を切り開く。
オリジナリティを生み出す楽しさを大いに味わってください。
私がはじめて独創性を意識したのは、T大学の大学院に入ったときです。
当時は、公害問題が徐々に明るみになってきたころで、環境と生命を研究したかった私は、大学で唯一、生物の研究をされていた教授のもとにつきました。
当時はまだ「バイオ」という一言葉もないころですが、私が今バイオエレクトロニクスをやるきっかけになるぐらいに、大きな影響を受けました。
私の先生は、日本最大の発見のひとつと言えるフェライト(磁気テープの茶色い粉末)を発見したK教授の門下生の1人、M先生です。
若くして心筋梗塞で亡くなられたのですが、創造性や独創性にこだわり抜く人でした。
とにかく「独創的な研究をやれ」と徹底的に指導してくれました。
夕方になると私たちがいる研究室に現れて、酒を飲みに連れて行ってくれたのも印象的です。
さかんに「フォロワー(追随者)になるな」「人のマネをするな」「文献を読むな」と言われていました。
「文献を読まなくても研究ができるのですか」と質問すると、「文献を読むからフォロワーになるのだ」というのです。
確かに、外国の一流雑誌に論文を投稿すると、掲載されるまでにおよそー年ほどかかります。
ということは、研究は2、3年前から始まっているはずです。
論文の内容が発想されたのは3、4年前でしょう。
だから論文を見てから研究をはじめても遅い。
自分の頭で考えてオリジナリティを出せというのが、先生の考えでした。
ある日、先生とバーで飲んでいたら、「君はオリジナリティをどのように出せば良いと考えているのか」と聞かれたことがあります。
とっさに答えられなかった私に、先生は宿題を出されました。
「明日の朝に、私の教授室に来なさい。
それまでに君にとってオリジナルの研究とは何かを考えてきなさい」夜中まで飲んでいる先生です。
どうせ酔っぱらって忘れているだろうと高をくくっていたのですが、次の日の朝10時頃学校へ行くと、先生はしっかりと昨晩のことを覚えていて、教授室で待っていらっしゃいました。
宿題の答えを急かす先生に、「わかりません」と言ってしまえば叱られるだけなのは承知していますから、私はとっさに答えました。
「他人が、気がつかないこと4他人が行わないこと4他人が行えないこと研究するのが、オリジナルな研究です」『他人が、気がつかないこと』は、誰も気づいていないのですから、オリジナリティがあるに決まっています。
『他人が行わないこと』、例えば嫌な分野の研究は他人が行いません。
エレクトロニクスを専門としている人にバイオをやれといっても誰もが嫌がってやらないでしょう。
『他人が行えないこと』、例えば危険な研究は他人が行えません。
苦肉の策ですが、とっさにそう思いついたわけです。
「お前は酔っていてもちゃんと仕事ができる男だな。
見込みがある。
ドクターコースまで行け」そんなことばをいただきました。
こうして、教授たちに独創性の大切さを徹底的に叩き込まれたのです。
その後、自分の論文を海外の雑誌に投稿したことがあります。
2ヵ月ほど何の返事も来なかったので「あんな有名な雑誌に日本の駆け出しの学生が出したのだから、捨てられたのだろう」と半ば諦めていたら、突然手紙が届きました。
手紙の内容は「英語の文法がひどいので修正してほしい」とのことでした。
自分で英文を書いたのだから仕方がないと思いましたが、その先には「内容はすばらしい」と書いてあります。
急いで修正して後で投稿したら、すぐに掲載されることになりました。
「やはり外国で一流の人が見てくれるのはオリジナリティなのだ。
先生が言ってくれた通りなのだ」心から興奮した私は、以後「独創性・創造性・オリジナリティ」を強く意識するようになりました。
アイデアは、無理にでも出すことが大切です。
私は研究室の人たちに言い続けています。
「30分間、一つのことについて考えたら、何か一つ位特許ができるはずだ。
あるいは、論文を1つ書くネタぐらいはできるはずだ」大切なのはアイデアを出す癖をつけることで、どんな小さなアイデアでも癖がついてしまえばいつか大きなものになります。
私がまとめたアイデアを出す方法がありますので、紹介しましょう。
T大学の大学院にいたころ、私はウインナーソーセージの皮について研究していました。
当時は羊の腸で作られていたのですが、何か代替のものでつくろうという研究です。
ウインナーソーセージの皮は、私たちの皮膚と同じコラーゲンからできています。
このときには、皮をつくる機械をつくらなければならなかったので、機械設計の勉強に力を入れてこなかった自分をつくづく後悔しました。
設計の本を片手に試行錯誤しなければならなかったのです。
その後、ウインナーソーセージの皮の研究で、自動車の電着塗装技術が役に立ったり、メッキ技術について調べて応用したり、それまでの自分の知識をはるかにしのぐ量の知識が必要になっていきました。
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